祈りのうちに

夫の突然の脳腫瘍、物語を書きかえながら、すべてを受け入れる
日々をつづりたいと思います

ひとりで心にとめる

春が深まり、さまざまな花が
街を飾っています。
桜の咲く前に、街のところどころで
ミモザが満開になっている姿を見て
昨年まで自分の家のミモザの木を
楽しみにしていたのに
今年はそれもできないことが
じわじわと心を曇らせていました。


夫が突然の病気になり
多くのことで悩み苦しんだ2016年
あれからもうすぐ2年がたちます。


夫の病気は私たち家族の
経済にも影響し
とうとう大切な家を手ばなすことに
なりました。
私たち家族はその家におよそ13年住み
玄関のシンボルツリーは
私の大好きなミモザ
庭にはラベンダーの大きな茂み
裏口に通じる出入り口は
白いもっこうばらのアーチ
庭の奥の塀は黄色のもっこうばらがからまり
奥の浴室の窓を開けると
5月にははごろもジャスミンの生け垣が
満開になって香っていました。
出窓の下にブラックベリー
庭の奥にはブルーベリーの木
下草あたりにはクリスマスローズが
何種類も一面に咲いていました。
好きなお花たちに囲まれた生活でした。
あの年はそんな家を手ばなさないと
明日をも見えない日々でした。


そんな2016年
5月から8月まで
私は毎日夫が入院していた大学病院へ
通いました。
家はその年の暮れに売りに出し
年が明けて初夏に新しく住む人が
決まりました。
私たちは夫がいないまま
9月の初めに引っ越しました。
引っ越した家は
お庭のない、それまでの家よりか
小さめの家です。
今の私たちに家があることだけでも
幸せなんだと感謝して
新しい日々を送っているつもりでした。


今年の2月、ミモザの季節に
それはやってきた
街の中でこの大好きな花をみると
好きな花なのに気持ちが沈むのです。
引っ越した家のミモザを思い起こして
心がすーっと沈んでいくのです。
そして今
街の中で出会うもっこうばらの垣根を見ると
同じ気持ちになることに気が付いた
もっこうばらが咲くと
摘んでは食卓を飾ったかつてのことを
思い起こしてしまうのです。


好きなお花から
こんなに悲しい気持ちになるとは
思いもしませんでした。
そのうちにラベンダーの季節が来て
きっと同じ気持ちになるのでしょう。
昨年まではラベンダーの香りに包まれながら
何本も摘んではリボンで編んで
スティックを作りました。


ミモザもラベンダーも
毎年楽しみにしてくれている人たちに
プレゼントしていました。
今はもうそれもできない


生きていくことが守られているのに
小さな影が心をおおう


聖書の中で聖母が色々なできごとを
心にとめていたように
私もひとり
心にとめています。


夫にこの喪失感は
わかりません。
でも、私もきっと
多くの自由を突然失った夫の喪失感を
全て理解することはできないのでしょう。
どんなにつらいことでしょうね。
よく乗り越えてきましたね。


私たちはそれぞれにこの喪失感の痛みを持っています。
それらを全て祈りにして神様に捧げましょう。
この世でのはかなさに
すがることなく前を向いて
今日も祈りのうちに